みなさんはフランスのスタートアップエコシステムについてどのような印象をお持ちでしょうか。
フランスは2013年にフランス政府が立ち上げたプロジェクト・La French Techに端を発し、首都パリを中心に急速に発展を遂げています。またBpi Franceとよばれる公的な投資銀行を中心とした起業家支援によって、若年層を中心に多くのスタートアップ人材が誕生している、ヨーロッパでも注目のスタートアップエコシステムとなっています。
過去のフランスのスタートアップエコシステムに関する記事はこちらをご覧ください。
今回パリを中心とするイルドフランス地域圏への国外からの進出推進を目的とした非営利組織・Choose Paris Regionのパリ事務所を訪問させていただき、Deep Tech industry expertとしてDeep Techに関する企業の誘致を推進するThomas Fauvelさんにお話を伺いました。
Choose Paris Regionの取り組みを、実際現地で実施したインタビューとともに紹介させていただきます。
イルドフランス地域圏への投資拡大・産業発展を推進
Choose Paris Regionは、パリを中心とするイルドフランス地域圏への進出を通じて国外の企業のビジネスやイノベーションを支援する政府系の非営利組織です。母体は地域圏の産業推進をおこなうParis Region、および地域圏の自治体であるRégion Île-de-Franceとなっています。
パリを含む8県からなるイルドフランス地域圏とは、フランス語で「フランスの島」という意味を持ち、オランダ一国を凌ぐ人口規模と、フランスの中心としての経済規模を持っています。そのためこの地域圏がフランスおよびヨーロッパの、様々な分野におけるハブとして機能しています。
主な産業では、宇宙・防衛産業やIT・食品産業・ヘルスケア・そして観光産業などがヨーロッパのハブとして機能している他、フランスの首都として金融や報道産業、そして芸術の都として美容産業などがならではの特色だといえます。
その他R&Dへの投資や最先端技術に関する特許数が地域圏別ではヨーロッパ1だというデータもあるようです。そしてそれらを支えているのはソルボンヌ大学をはじめとする大学や研究機関を端に発する人材育成だといわれています。
こちらのChoose Paris Regionによる紹介動画からも、この地域圏が産業の最先端地域であることが伺えるかと思います。
急成長する「スタートアップ」「AI」
そして特に現在力を入れているのが、「スタートアップ」と「AI」です。
まず「スタートアップ」の切り口では、La French Techをはじめとするフランス国家の政策に呼応するように、Choose Paris Regionでもスタートアップエコシステムの構築を推進すべく様々な形で発信しています。
こちらでは、いかにイルドフランス地域圏にスタートアップを始めるための環境が整っているかについて紹介されています。
既存の大きなマーケットに加えて、Station Fをはじめとした650のスタートアップ施設や27億ユーロのVCによる投資、8000を超えるスタートアップ数、ビザの取得しやすさなど様々な優位性があると紹介されています。
特徴的なのが、本動画内ではヨーロッパ内でロンドンやベルリンよりもスタートアップエコシステムとして優れていると伝えられています。ここからもフランスの国民性と、これからより多くのユニコーン企業を生み出していくという意気込みが感じられます。
またフランス発のユニコーン企業の一つである自動車の相乗りサービスを展開するBlaBlaCarも動画中に紹介されております!こちらのLa French Techのページにあるように、その他にもフランスから次々とユニコーン企業が輩出されており、注目が集まっています。
本編でもたびたび映っておりましたStation Fについては別記事にて紹介させていただく予定です。
このようなスタートアップエコシステムの構築が進む中で、特に注目を集めている分野が「AI」になります。
フランスでは国内の大学や、INRIA・CNRS・MIAI・PRAIRIEをといった研究機関を通じて多数の数学系・情報系人材が誕生しています。これまではこのような人材をシリコンバレーや他のヨーロッパ諸国に技術者として輩出していましたが、これを自国に呼び戻しフランスをAI大国として確立させる方針を、マクロン大統領が2018年に発信しています。
このような人材を積極的に採用するために、2015年にはFacebookがFacebook AI Research(FAIR)としてアメリカにあったAIの研究機関を全てフランスに移しました。FAIRの所長は、深層学習の分野でチューリング賞(「コンピューティングのノーベル賞」とよばれる)を2018年に受賞したフランス人のYann Lecun氏が務めています。
これを皮切りに、現在ではGoogle・Sumsung・富士通・IBM・MicrosoftなどがこぞってAIの研究施設を作っています。
このような大企業がこぞって注目するフランスのAI分野では、新たなサービスを展開するスタートアップが続々と生まれており、Dataiku, MeeroなどがAIを用いたサービスによってユニコーン企業となっています。
Choose Paris RegionもAI系スタートアップを支援する様々な施策を打ち出しています。その一つが2018年のアメリカ・ラスベガスで開催されたCESで発表されたAI系スタートアップに特化したコンペティション・AI Challenge 2018です。こちらではイルドフランス地域にあるAI系スタートアップを対象にコンペを行い、入賞3チームに総額約1億2000万円を資本寄付の形で手渡されました。
さらに2019年のCESにおいても選抜された40のAIスタートアップを披露し、2021年に向けては”AI 2021”として新たなプロジェクトが推進されています。
現地での取材の様子
今回は実際にパリ北部にあるChoose Paris Regionを訪問させていただきました。施設内にはParis Regionの他の部署も居を構えており、多くの建物が並んでいます。
中に入るとパリのシンボルであるエッフェル塔のモニュメントが迎えてくれます。
今回お話を伺ったのは、Deep Tech industry expertとしてDeep Techに関する企業の誘致を推進するThomas Fauvelさんです。今回は以下3つの切り口でお話を伺いました。
①フランスへの注目の高まりにともなう企業側の変化
前述のように、豊富なAI人材を獲得する目的で様々な多国籍企業のフランス進出が増えてきています。そのため、優秀な人材を確保するためにフランス国内の企業において徐々に企業文化の変化が見られるようです。
国家の動きとしてはマクロン大統領が大企業のフレキシブルな雇用体系を推し進める動きを発信し、企業側においても社員のアントレプレナーシップを醸成する動きが活発になっているようです。フランス企業というと10年前までは従業員をすぐにクビにする印象を諸外国からもたれていたようですが、このような社内での取り組みを経てその風潮も変わりつつあるようです。
②若年層を中心とした意識の変化
このような官民の取り組みはフランスの学生を中心とした若年層の意識も変えつつあるようです。具体的には、フランスにはもともと「いかに自分の人生・やりたいことを実現するのか」という国民性があり、この国民性が今の若年層にとってはアントレプレナーシップやスタートアップの立ち上げにつながっているようです。それは自らのキャリアを考えたときに規模の小さい会社の方が大企業よりも多くのことを学ぶことができる、といったメンタリティです。
今回パリでは若い起業家の一人としてAptero CEO Cedric Chaneさんにもお話を伺っています。詳しくはこちらをご覧ください。
③テクノロジーを切り口とした積極的な施策
フランスはAIをはじめとした高度な技術力を生かしてDeep Techに対する投資を積極的に進めています。実際にこちらの資料によると、フランスはイギリスについでヨーロッパで2番目にDeep Techに対する投資をおこなっています。
Choose Paris Regionによる施策として、今年10月に実施される世界最大のDeep TechカンファレンスHello Tomorrow Global Summitに対してChoose Paris Regionが後援しており、カンファレンス内ではChoose Paris Region独自のプログラムを実施する予定のようです。
Hello Tomorrowについてはこちらの記事をご確認ください。
またChoose Paris Region独自の取り組みとして、海外の企業がイルドフランス地域圏でイノベーションを起こすきっかけを作るためのTechMeetingsというプログラムを紹介していただきました。
こちらでは月1回の頻度で、各分野に特化した企業の幹部・起業家・研究者・投資家が一同に介し、ディスカッションをベースとして、新しいイノベーションと繋がりを生み出そうとするものです。2020年には年間を通じて実施されておりますので、詳しい内容についてはこちらをご覧ください。
空港産業の革新を目指すSafe Travel Challenge
直近においてChoose Paris Regionは、フランスを中心に空港を経営するGroupe ADPと合同で、全世界のスタートアップを対象とした、Covid-19に伴う空港産業の革新を目指すアクセラレーションプログラム”Safe Travel Challenge”を実施します。
そして来る5月15日、実際にChoose Paris Regionの方をお招きし、フランスのスタートアップエコシステム、およびSafe Travel Challengeを紹介するイベントを、RouteX主催で実施いたします。
Safe Travel Challengeとは
Safe Travel Challengeとは、パリ・シャルルドゴール空港等を運営するGroupe ADPとChoose Paris Regionの共催で実施される、全世界のスタートアップを対象にしたアクセラレーションプログラムです。
直近のCovid-19の蔓延に伴って空港産業は、空港内での感染予防・感染者の検知・新たなサービス展開、以上3つの視点での新しい解決策を求めています。
これらの解決策をもつスタートアップにとって、Groupe ADPのリソースを用いて新たなサービスを開発する貴重な機会となります。また、このアクセラレーションプログラムを通じて、フランスをはじめとするヨーロッパへと進出するきっかけを掴むことにもなります。
なお申し込みの期限は2020年5月20日となっておりますので、参加されたい場合はお早めにご準備ください。
応募に関しては以下問い合わせよりご連絡ください。またこちらから英語にて概要を確認いただけます。
いかがでしたでしょうか。
RouteX Inc.では、フランスを中心にヨーロッパのスタートアップエコシステムに関する調査を引き続き進めてまいります。記事として現地の様子を発信しておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。
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また、RouteXでは引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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